瓦版 第11号 「波長はわかったけどサンゴの色揚げに必要な光量は?」

今回はサンゴ飼育における光量の話でした。

サンゴ飼育における光量とその測定

光には照度や輝度など多くの指標が存在します。ただし、サンゴ飼育においてはこれらの一般的な指標は適切ではありません。サンゴは褐虫藻の光合成に依存するところが大きいため、光合成に着目した指標を用いるのが適切です。その指標がPPFDです。

PARとPPFD

植物や植物プランクトンはクロロフィルなどの光合成色素を用いて光合成を行います。この際に利用出来る光はおおよそ400nm~700nmの波長範囲に限定されます。この波長範囲における光の指標はいくつか存在し、それがPARやPPFDです。

PARとはPhotosynthetically Active Radiationの略で、日本語では『光合成有効照射』と呼びます。単位はW/m²で、400nm〜700nmの波長範囲の光における1m²あたりのエネルギー量を表しています。情報元によっては単位をμmol/m²sとして光量子量を表す指標として紹介されている場合もありますが、エネルギー量と量子数では得られる数値が異なると思います。光量子量は後述するPPFDが表すものですので、本サイトではPARはエネルギー量を表す指標としてご説明させていただきます🙏

ではそのPPFDですが、これはphotosynthetic photon flux densityの略で、日本語では『光合成光量子束密度』と呼びます。こちらは1m²あたり1秒毎に届く400nm~700nmの波長範囲の光量子量(μmol/m²s)を指しています。

この二つは非常に似ています。ただ、繰り返しになりますが、PARはエネルギー量でPPFDは光量子量と、異なる尺度で光合成に有効な光を測定しています。光のエネルギーは波長によって異なり、基本的には波長が短い方がエネルギーが高くなります。このため例えば青波長の光量子10個と赤波長の光量子10個を比較した場合、PPFDはどちらも同じ値になりますが、PARでは青が赤より高い数値となると考えられます。

結局どちらを使うべきか、そして実際に皆さんが日常で耳にする数値は何かというと、それはPPFDになります。なぜなら、光合成は光量子の当たった『数(量)』が重要となる為です。青波長が10個でも赤波長が10個でも光合成の効率は変わらないそうです。ただ、はっきりとした経緯は不明ですが、日本のアクア界隈ではPARがPPFDと同義として使用されています。ですので、正確にはPPFDが光合成の評価として適切ですが、PARと表現しても差し支えはないと思います🙆‍♂️

PPFDの測定

サンゴ飼育で光量測定といえばPPFDという事を学びましたが、これを実際に測定できれば、サンゴ飼育で非常に役立ちます。測定する場合は『光量子計』を用いますが、非常に高価ですので必須ではありません。購入すると8万円以上しますし、飼育スタイルにもよりますが使用頻度はそこまで高くはありません。ショップやアクア仲間からのレンタルなどもありかと思います。

マリンアクアリストがよく使用する光量子計はApogee社のSE-MQ-500です。水陸両用で用いる事が可能で、操作も簡便です。これもPARメーターと呼ばれたりしますが、正式には『Quantum Meter(量子計)』です。

なお、光量子計は測定する波長範囲によっていくつか存在しますので、光合成に必要な400nm〜700nmに近いものかどうかは確認が必要です。

似た型番でSE-MQ-510という青いメーターがあります。これは水中に特化した商品になります。水中では空気中と異なる屈折率が影響し、同じ光源でも測定結果が低くなります。この低下を補正した数値が表示されるように設定されたものがSE-MQ-510です。具体的には水中でのPPFDを約1.3倍すれば陸上でのPPFDに補正する事が可能で、この計算を自動でやってくれます。

ただし、日本のアクアリストの多くはSE-MQ-500で測定した数値を補正せずにコミュニケーションを取っています。国内で話をする分にはSE-MQ-500で測定した数値をそのまま補正せずに解釈しておけば良いと思います。ただし、海外などの情報は水中補正をしていたり、SE-MQ-510の測定値でコミュニケーションしている場合もあるかも知れません。妙に高い数値と感じた場合は注意した方が良いと思います。

自然界での光量

前置きが長くなりましたが、瓦版の内容を見ていきます。ここでは我々がまさに知りたい自然界での光量が示されています。瓦版上段では水深4mでのPPFDが示されています。海や水流のある水槽では、水面が揺らぎ水中に入る光量は一定にはなりません。これを反映して、永二氏が測定した際はPPFDはおおよそ300〜800μmol/m²sを示しました。

また適正な光量として、

  • SPS:300〜500μmol/m²s
  • ソフトコーラル:100〜200μmol/m²s
  • LPS:50〜100μmol/m²s

という指標が記載されています。この数値は非常に参考になりますね🙏

実際の光量調整

瓦版にはいくつかの代表的なLEDのPPFDが記載されています。合計各6点を空気中で測定した結果が示されていますが、これだけ見ても光量の強度や分布などに各LEDで個性があるように思います。PPFDは機材の関係で気軽には測定出来ません💦 こういった指標となる数値はありがたいですね🙏

実際の設定ですが、上記の指標を参考にしつつ、まずは波長構成を決定します。ただ、これを厳密に行うには『スペクトロメーター』が必要です。スペクトロメーターは量子計よりもレアな機材なので、製品のHPなどの情報や使い慣れたプロの意見を参考にする事は大切です。この点、SPECTRA SP-200はアプリ内でスペクトルをシュミレーションできるので非常に便利です🙆‍♂️

波長構成をが決まった後に全体のPPFDを決定して設定は完了です。全体の出力調整が出来ない場合は、波長構成時点で各素子のパワーをMAXまでは上げずに余裕を持たせておくと調整はしやすいと思います。また、出力を調整しても目標PPFDに上手く調整出来ない場合は、照明位置を動かす事で微調整可能です。この際の指標も記載されています。