お疲れ様です。
raikaです。
新型コロナウイルスに対するワクチン接種が始まりました。現時点(2021年5月)では医療従事者向けの接種が終わらず、高齢者向けの接種もわずかに進んだ程度です。一般向けの接種はまだまだ先といったところですが、事前の知識共有をしておこうと思います。今回のテーマはワクチンと妊娠、周産期の関係についてです。特に女性にとっては非常に繊細で、必要不可欠なテーマであると思います。これまでまとまった報告は見つけられなかったのですが、今回大規模な統計データが論文報告されましたので、これを解説をしていこうと思います。
文献は権威ある雑誌「New England Jearnal of Medicine」掲載のこちらです。
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はじめに
まず初めに、日本では現時点でmRNAワクチンが妊婦さんに対してどのように推奨されているか確認してみましょう。日本産婦人科学会のサイトを見てみると、現時点では、接種対象者から除外はしていませんが、長期的なデータが不足しているため積極推奨はしていません。また、器官形成期(妊娠12週まで)の接種は控えるようにとしています。更新が現時点で2月なので、最前線の産婦人科の先生の知見は必ず確認は必要ですが、不安の残る書き方になっていますよね。
2021年5月12日に第2版の改定が出ました。概ね、海外の報告や日本の現状を受け、推奨する方向に少し舵を切った内容となっています。詳細はこちら。簡単に要点をまとめておきます。
- 妊婦に対する短期的な安全性が報告されてきているが、中長期的報告や胎児や出生児への影響は今後の情報収集が必要。世界的に接種のメリットはそのリスクを上回る。
- 妊婦は接種対象から除外しない。特に感染リスクの高い環境の場合は積極的な接種を考慮する。接種後は30分の院内待機を行う。現状、催奇形性や胎児胎盤障害を起こす報告は無いが、念の為に器官形成期(妊娠12週まで)は偶発的な胎児異常との判別に混乱を招くため接種をと避ける。妊婦にの場合は、なるべく産科施設でので接種をと受け、前後の胎児の状況も諸検査で確認する。無理な場合も前後1週間以内の検診を受ける。
- パートナーも家庭内感染を予防する為に接種を考慮する。
- 妊娠を希望する方は、なるべく妊娠前に接種しておく。
報告のあったアメリカではどうかと言うと、妊婦さんが感染した場合、COVID-19の重症化リスクが高くななったり、早産などの周産期のリスクが上昇する等の報告もあります。このためアメリカでは産婦人科学会や小児科学会からワクチン接種は控えるべきではないと提言されています。各国で対応が様々ですが、今回のようにまとまったデータが相次げば、日本で一般向けの接種が始まった際に安心して判断できる事が期待できますね。
試験の方法
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モニタリングシステムと対象者
米国では「V-safe」と呼ばれるワクチン接種用に作られたモニタリングアプリがあり、これに情報を入力する事で多くの情報が集約される仕組みになっているようです。登録は任意で、登録者は接種後に副作用や健康状況を評価するための情報をオンラインで報告する事ができます。フォローアップ期間はワクチン最終投与から12ヶ月間継続します。
今回の試験の対象者は妊娠期間中に予防接種を受けた18歳以上の女性となります。また、乳児に関しても生後3ヶ月間追跡調査されました。V-safeで妊娠情報が入力されると、試験スタッフが電話連絡を行い、さらに詳細な調査を行うために登録が行われました。
評価項目
年齢分布は16〜54歳となり、妊娠中の人と妊娠していない女性の間で比較検討が以下の項目が評価されました。
- ワクチン接種の翌日の局所的および全身的副反応
- 妊娠結果の分析 通常出産、自然流産、誘発流産、または死産に分類
- 新生児の分析 早産、先天性異常、未熟児、および新生児死亡に分類
評価は米国疾病センターで実施されています。
結果
V-safeにおける妊婦さんの情報
こちらがV-safeの段階で提供された妊婦さんの情報です。情報提供を行なった妊婦さんは35,691人でした。そのうちの約6割が25〜34歳で製薬会社の比較では特に有意な差はありませんでした。
Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Personsより引用し改変
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報告された副反応
以下の図がV-safeの段階での妊婦さんの副反応の結果です。小さくて申し訳ありません💦
頻度の高いものから順に並んでおり、注射部位の痛み、倦怠感、頭痛、筋肉痛などの頻度が高く、特に2回目接種後の報告が多かったようです。
Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Personsより引用し改変
次のグラフは同年代の妊娠していない女性との比較になります。
結果としては特に妊娠の有無で副反応の頻度に大きな変化は認めませんでしたが、妊婦さんでは局所の痛みがやや出やすく、頭痛、筋肉痛、悪寒、発熱などはやや出にくい傾向にありました。
Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Personsより引用し改変
また、以前に私がまとめた副反応の報告と比較すると、今回は母集団が若いためか、全体に副反応の頻度はやや高い傾向にあると感じました。
妊娠及び新生児の結果
こちらが電話確認の上で登録された妊婦さんの情報になります。
合計で3958人の方が登録されています。年齢、人種、接種時の妊娠時期、コロナ感染の有無についてまとめられています。こちらのデータも製薬会社間での有意な差は認めていません。
Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Personsより引用し改変
次の表は登録者のうちの827人の参加者について、妊娠及び新生児における有害事象をまとめたものです。
一般的な発症率との比較が行われていますが、今回の試験で生じた有害事象と比較して、いずれも発生頻度に有意な差は認められませんでした。また、先天性異常を報告した人の中で、妊娠初期の段階(いわゆる器官形成期)でワクチンを接種した人はいませんでした。加えて、報告された先天性異常には特定の傾向は認められませんでした。
Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Personsより引用し改変
以上がこの論文の結果となります。この論文にもあるように、アメリカでは妊娠時期に関係なくワクチンが接種されている現状も読み取る事ができ、ワクチン接種に対する積極性が伺えます。
この試験デザインでは、V-safeのみからの情報はアプリ入力に依存しています。このため、入力ミスなどの可能性はありますね。また、妊婦及び新生児の有害事象に関して一般的な発生率と比較をしていますが、その母集団の属性は若干異なる可能性もあります。
先天性異常との因果関係については、今回の試験では明確に否定は出来ていません。これは妊娠初期にワクチン接種を受けた人のデータがまだ出揃っていないためです。こういった事も含めて、今後の追加報告が気になるところです。
とは言え、今回の試験では、mRNAワクチンに伴う妊婦さんに対する明確な周産期異常への因果関係は認められませんでした。また、他の報告では、妊娠後期にワクチン接種することにより、抗体が胎盤を介して移行することも指摘されています。これにより、新生児に対してCOVID-19に対する免疫力を付与できる可能性も示唆されています。まだまだ、新たな報告が出てくるとは思いますが、ワクチン接種をされる又は検討される場合の判断材料になり得る内容ではないかと思いました。
ではまた。