皆様 お疲れ様です。
raikaです。
今日は本業の医療テーマで書きたいと思います。
私は日々、消化器外科医として働いていますが、今回は私の専門分野の中でも頻度の高い病気をご紹介しようと思います。
今回選んだ病気は「胆石症」です。
会社の検診で指摘されたり、違う病気の検査のついでに見つかったりと、比較的よくある病気です。
指摘されたはいいけど、症状も特にないから放置している方も多いと思います。
そんな馴染みのある「胆石症」について分かりやすく解説したいと思います。
最後まで読んでいただければ、「胆石症」について理解でき、自分がどうすべきか判断できるようになると思います。
胆石症とは
そもそも胆石症とはどんな病気なのでしょう?
それはズバリ胆嚢(たんのう)の中に石ができる病気です。「胆嚢結石症」とも呼びます。この胆嚢内に生じた結石によって様々な事が起こります。
まずは解剖からご説明します。
胆嚢について
図は胆嚢周辺の主要臓器を抜粋した模式図になります。胆嚢は肝臓の下面にくっつく「小茄子」程度のサイズの臓器です。その働きは胆汁と呼ばれる消化液の「貯蔵庫」です。胆汁は肝臓で生成される脂肪を消化するための消化液の一種です。図では、この胆汁の流れる部位ウィ黄緑色で示しています。胆汁は生成されると総胆管を通り十二指腸に分泌されますが、一部が胆嚢に流れ、そこに貯蔵、濃縮されます。食事の刺激を感知すると、胆嚢が収縮して胆汁が十二指腸に流れ食物が消化が進んでいきます。
胆石の種類とその成因
大きくコレステロール系結石とビリルビン系結石とに分類されます。
コレステロール結石は胆石全体の70%を占めており、コレステロール成分の過剰な胆汁が、胆嚢機能低下などによる胆汁うっ滞を背景として胆嚢内で結晶化する事が誘因と言われています。
ビリルビン系結石は残り30%を占めており、細菌感染自体や、これに伴う胆管狭窄、胆汁うっ滞により析出すると考えられています。
胆石ができやすい人
日本では成人全体の10%に胆石があると報告されています。
特に中年、女性、脂質異常症、肥満、白人、多産の人にできやすいと言われています。また、胃癌により胃を切除した人は、同時に胆嚢を動かす神経も切ることが大半で、これにより前述の胆汁うっ滞が生じて胆石の原因となります。
胆石症でどんなことが起こるのか
幸いな事に多くは無症状で経過します。
結石が胆嚢の出入り口を塞いだり、胆嚢から出ていく事で様々な症状が出現します。
胆石疝痛発作
典型的な症状は、みぞおちから右の肋骨の下あたりにかけての強い痛みです。時には背部や右肩まで痛みが放散します。特に油物の多い食事や暴飲暴食後に生じやすいです。
痛みだけでなく、吐き気や嘔吐が出現する事もあります。
続発する疾患
胆嚢炎
結石が胆嚢の出入り口に詰まってしまう事で胆嚢と総胆管との交通が遮られます。この結果、胆嚢全体に炎症をが起こり胆嚢炎が発症します。軽度なものは抗生物質の投与や食事制限で改善する事もありますが、緊急手術を含めた外科的治療が必要となる事が多い病態です。
胆管炎
胆嚢から結石が出ていき、胆管で目詰まりして炎症を起こした状態。こちらも緊急的な処置が必要な事が多く、特殊な内視鏡治療が必要となります。
胆石性急性膵炎
上記の図のように、胆汁の流れ道である総胆管は十二指腸乳頭と呼ばれる場所が出口となります。この場所は膵臓(図の黄色で塗られた臓器)で作られる消化液、膵液の出口にもなります。このため、十二指腸乳頭ぶに結石が詰まってしまうと、総胆管だけでなく膵臓の炎症も起こします。
胆嚢癌との関係は?
胆石が胆嚢癌の原因となるという明確な証拠は現在のところ報告されていません。しかしながら、胆嚢癌の患者さんに胆石が多かったとの報告はされているため、定期的な経過観察は必要であると考えられます。
検査について
腹部超音波検査
高い精度で診断が可能です。体に対して傷をつける事もなく、とても優秀な検査です。
C T検査
胆石を見つけることは可能ですが、胆石の成分によっては見えない事もあります。しかし、胆嚢炎などの合併症が疑われる場合は、その程度を評価するのに重要な検査となります。
M R C P
胆石を見つけることは可能ですが、精度はそこまで高くはありません。ただし、胆嚢や胆管の全貌を把握するのに有用なため、計画的手術の準備として使用します。
血液検査
無症状や疝痛発作だけでは異常値が出ることは少ないです。胆嚢炎やその他の合併症の有無を調べるために必要となります。
治療
手術
胆石症の治療の基本は手術加療であり、胆嚢摘出術を行います。胆石のみ摘出することは技術的には困難ですし、根治的観点からも胆嚢摘出が理にかなっています。
胆嚢は体に唯一の臓器ですが、前述のように貯蔵庫としての機能が主体です。摘出によって体から胆汁が無くなるわけではありません。また、胆石症の患者様はそもそも胆嚢の機能が低下している場合も往々にしてあります。このため、摘出による大きな障害はないと考えてよいです。
胆嚢は胆管と繋がっており、肝臓の下面にへばりついています。手術では主にこの2箇所を切り離したのちに体外に取り出します。
胆嚢摘出の方法としては大きく開腹と腹腔鏡下があります。前者は文字通りお腹を切って大きく開けて、胆嚢を直接見て触って摘出を行います。後者は棒状のカメラと特殊な細長い手術器具を用いて、開腹と同様の操作を画面越しに行います。
この二つの方法では、手術に伴うトラブルの発生率に差はありません。さらに、腹腔鏡では傷が小さく術後の回復が早いというメリットがあります。このため基本的には腹腔鏡下胆嚢摘出術後が第一選択となります。
経口胆石溶解薬
15mm未満の石灰化成分の少ない石では、半年間内服することで約60%未満の確率で溶解できたとの報告があります。ただし、一定の確率で再発する可能性があり、あくまで補助的な治療法と考えています。
体外衝撃波胆石破砕法
20mm未満の石灰化成分のない結石に対しては有効と報告されています。しかしながら、この方法も内服と同じく根治的な治療ではありません。再発の可能性もありますので補助的治療法と考えています。
胆嚢摘出術を受けることになりました
入院した時の実際の流れ
ここでは「腹腔鏡下胆嚢摘出術」を受ける場合の私の勤務している病院での実際を踏まえた流れを説明します。
手術前日
主治医の診察、看護師、薬剤師、手術室看護師、麻酔科など、あなたの治療に関わるスタッフが訪れて、お話を伺います。不安な事や分からない事があれば、なんでも聞きましょう。
手術当日
原則として全身麻酔での手術となります。寝て起きたら手術は終わっています。
手術時間はおおよそ1時間前後となります。ただし、過去に腹部の手術を受けた事がある場合は、お腹の中で癒着が起こっている可能性があります。こうなると、まずは癒着を剥がす操作がある程度必要になりますので、その分の手術時間が延長します。
術後の経過
病院にもよりますが、2〜3日の経過観察の後に退院となります。開腹手術の場合は傷が大きいため1週間程度となることが一般的です。
この数日間は何のためかというと、術後の合併症が起こってこないかを観察している期間と言っても過言ではありません。そのため、合併症さえ起きなければ、翌日から食事は食べられますし、術後に特別な処置があるわけでもありません。人によっては滅多にないのんびりした時間をお過ごしください。
胆嚢摘出術の合併症
主なものは下記の如くですが、いずれの合併症も頻度は1%にも満たないほど低いと報告されており、この術式は安全と言えます。
出血
術中及び術後の出血にまつわるトラブルです。状況によっては輸血や緊急手術などを要する場合もあります。
感染
主に細菌感染です。手術の傷口やお腹の中で感染が起きます。軽度であれば抗生物質の投与で改善しますが、膿が溜まったりするとドレナージと言って、膿を除去する処置をしたりします。
他の臓器損傷
術中に関係のない臓器を損傷する可能性があります。特にこの手術では誤認して胆管を切断する可能性があります。この場合は術中に開腹へ移行して胆管再建といった追加処置が必要となります。
胆汁漏
この手術では胆汁の通路を一部切除します。このため、切除した胆管などから胆汁が漏れ出す可能性があります。また胆汁を生成している肝臓を損傷することにより、稀にその表面から胆汁が漏れ出る事もあります。胆汁は消化液ですので、触れた臓器は容易に炎症を起こし、腹膜炎に至ります。
退院後の生活
胆汁の貯蔵機能が失われますので、退院当初は油物を控えめにするようにお伝えしています。徐々に油物の摂取を通常に戻して特に異常がなければ、制限はなくしてもらっても構いません。
異常があるとすれば、下痢ですが、その頻度は数%と報告されています。
運動に関しては、痛みの程度に応じて負荷を上げ、痛みが無くなれば制限はなくなります。
つまりは、術後は基本的にほとんど後遺症はありません。
手術はやっぱり受けた方がいいのか?
無症状の胆石症患者さんのうち、毎年2%に軽い症状、0.2に重篤な症状が出現すると報告されています。
明確な統計学的調査はされていませんが、上記のように残りの90%以上の無症状の胆石症患者さんは無症状のままです。このため、そのような患者さんに対して予防的手術を行うことは基本的には勧められません。
ただし、有症状の既往がある患者さんでは再燃する可能性が無症候性に比べて高くなりますので、治療を積極的に検討します。
以上が胆石症とその治療の実際のまとめになります。
皆様の参考になれば嬉しいです。
ではまた!