皆様お疲れ様です🌱
raikaです。
今日は「考える🤔」シリーズを久しぶりにやろうと思います。
今回のお題は『窒素循環』です。
高校生物でも出てくるワードのようですが、高校では物理と化学選択だった自分にはあまり馴染みのない言葉でした💦 アクアリウムでは高校生物レベルの知識が結構使えたりするので、今更勉強中です😅
アクアリウムでは生体達をいかに状態よく飼育し、美しく魅せるかは1つの醍醐味であり、それを実現させるためには生物学を勉強する事は大事です。特にサンゴ飼育において、この『窒素循環』を理解しておくことは有意義ではないかと思います。これを知っておくことで、窒素化合物であるアンモニア、硝酸塩、アミノ酸などの物質が、水槽内でどのような関連性を持って変遷していくかがある程度把握できます。その結果、これらの物質の関連性を理解した上でコントロールが出来るようになります。
今回はそんな『窒素循環』について学びます。基本的な内容を私なりに勉強し、理解した内容を共有しようと思います。
誤りがあれば遠慮なくご指摘下さい🙏💦
窒素循環
地球上の物質の多くは有限ですが、生物と無生物の間を様々な影響を受けながら移動し、必要な場所に行き届くようになっています。移動の過程では、その姿を時に変えながら循環しており、これを『生物地球化学的循環』と呼ぶそうです。我々が生きていく中で利用するものや、我々自身を構成している物質も全てこのサイクルの一環と言っても過言ではないと思います。
この物質の循環のうち、特に重要な物質に着目したものがいくつか存在します。そのうちの一つが今回勉強する『窒素循環』です。これは文字通り、窒素が地球上の様々な環境でやり取りされて形成される循環を指します。
窒素循環は地球上のあらゆる環境で行われていますが、アクアリウムを取り巻く環境でも当然に行われています。なので、今回はアクアリウムに焦点を絞っての窒素循環について学んでいきます。
下図はアクアリウムに関連する『窒素循環』の概要図になります
※ここでは、理解しやすいように、窒素循環に登場する窒素化合物は、後述するアンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩、窒素、アミノ酸などに限定しています。
水槽内では生体が活動する中でアンモニアが発生し、これが硝化や脱窒、窒素同化などの工程を経ながら様々な窒素化合物に変化し、多くの生物たちに利用されています。このサイクルを見ると、魚への給餌一つとっても、魚だけでなく、微生物や褐虫藻、サンゴにまで結果的に行き届いている事が分かると思います。
この事から、窒素を循環させる事は大切であり、その為には様々な生物の存在が必要です。生物多様性を豊かにする事の意義が分かりますね😌
以下では、図中に記載された各工程について補足します。
大気中に存在する窒素分子をアンモニアに変換する事を『窒素固定』と呼びます。生物が利用しにくい窒素分子を利用しやすい窒素源に変換する基礎的な工程とされます。
後述する『脱窒』とは真逆の反応ですね💡
この工程を行える生体は限られており、自然界では細菌、藍藻、古細菌などの一部が窒素固定を行います。
調べた限りでは、マリンアクアリウムで窒素固定を行えるものにはシアノバクテリアがいます。とはいえ、窒素固定で生成されたアンモニアはすぐに利用されて別の物質になるようです。なので、窒素固定能のある生体が存在するから水中のアンモニアが高くなる訳では無さそうです。
ただし、これらの生体が死んでしまえばアンモニアは体外に出るのではと考えられます。何らかの理由で大量死すれば、水中のアンモニア濃度に影響する可能性はあります。経験的には、過去に白点キラーでシアノバクテリアが一掃された際、スキマーの汚水カップがかなり汚れ臭いました。今から考えると、あの時にアンモニア濃度が上昇していたのかも知れません…🤔
アンモニアを酸化して亜硝酸、次に硝酸に変換する工程を『硝化』と呼びます。
まず初めに、アンモニアは亜硝酸塩(NO2−)に変換されます。この工程を担っているのがニトロソモナス属(アンモニア硝化菌)です。
2 (NH3) + 3O2 → 2HNO2 + 2H2O
アンモニア硝化菌は上記のようにアンモニアと酸素を合成して亜硝酸(HNO2)と水に変換することが可能で、ここで得られたエネルギーを用いて生活しています。
次に働くのがニトロバクター属(亜硝酸硝化菌)です。彼らは亜硝酸塩を硝酸塩に変換してくれます。
2HNO2 + O2 → 2HNO3
上記のように亜硝酸と酸素を合成して、硝酸(HNO3 )を合成します。ここでもエネルギーが発生しており、これが亜硝酸硝化菌のエネルギー源になります。
この『硝化』反応によりアンモニアは毒性の低い硝酸塩へと変換されながら、様々な微生物に利用されます。
窒素化合物を窒素に変換して待機中へ放散させる工程を『脱窒』と呼びます。
これを行ってくれるのも細菌で、脱窒菌と呼ばれます。
この細菌は通性嫌気性細菌に属しており、通常は好気呼吸(酸素を使ったエネルギー合成)を行っていますが、周辺環境が嫌気層、すなわち酸素の届かない状況になると以下に示す嫌気呼吸で酸素なしでエネルギー合成を行うことが出来ます。
2NO2¯ +3H2 → N2 + 2OH¯ + 2H2O
2NO3¯ + 5H2 → N2 + 2OH¯ + 4H2O
これにより硝酸塩は最終的に窒素へと変換され、空気中に放出されます。
硝酸塩に代表される窒素化合物を吸収し,アミノ酸や核酸塩基など生体に必要な有機窒素化合物を合成することを『窒素同化』と呼びます。
窒素同化を行う生体は、植物、植物プランクトン、藍藻など多岐に渡ります。マリンアクアリウムで重要な窒素同化をする生体は、褐虫藻を含む植物プランクトン、そして海藻です。
リフジウム水槽で海藻を育て、硝酸塩低下を狙う理屈はこの窒素同化の促進にあります。
上述のように、褐虫藻は硝酸塩を栄養源として吸収します。そして、取り込んだ硝酸塩はアミノ酸や糖分に変換され、その多くをサンゴに供給するのです。一般にサンゴ水槽、特にSPS水槽は低栄養塩(低硝酸塩、低リン酸塩)が推奨されてしますが、これはあくまで需要と供給のバランスが良好な上での低栄養塩であり、枯渇した低栄養はむしろサンゴの状態を悪くする可能性があります。
特にLPS等、蛍光蛋白を多く所持するサンゴでは、栄養塩を高めにすると良いと言われる所以はここにあるかと思います。なので、枯渇して状態を悪くするくらいなら、僅かに栄養塩が存在する程度に調整してやる方がリスクを少なく飼育できるのではないかと考えます。
窒素化合物
窒素を原料とした物質は、窒素分子を始め数多く存在します。これらは窒素化合物と呼ばれ、この項ではマリンアクアリウムに関連する代表的な窒素化合物を紹介していきます。
窒素(N)は大気中の約80%を占める元素であり、我々には比較的馴染みのある物質です。大気中に存在する窒素は窒素が二つ組み合わさった『窒素分子(N₂)』です。
便宜上、ここでは単に窒素と呼ぶ際は窒素分子のことを指している場合があります🙏
その名の由来ですが、窒素を分離した人物が、窒素のみの環境では生命は窒息死してしまう事を発見し、その事から『窒素』と名付けたそうです。
そんな窒素ですが、普段はあまり意識する事はありませんが、実は我々を含め生物の構成成分であるタンパク質、またその原料であるアミノ酸や、はたまた我々の遺伝子であるDNAなどの必須材料として非常に重要な物質です。
このように重要な窒素ですが、多くは前述の通り大気中に窒素分子として存在します。この窒素分子は非常に安定した物質であるため、多くの生体はそのまま利用する事ができません。ただし、一部の微生物がこの窒素分子を窒素化合物に変化させる『窒素固定』を行う事が可能で、多くの生物は生成された窒素化合物を摂取して利用します。
アンモニアは一つの窒素と三つの水素からなり、NH3と表記されます。大気圧では気体で、特有の刺激臭があります。水に溶けやすく、水槽の中にも存在し、周知のごとく毒性の高い物質です。人間の場合は、アミノ酸を分解する過程で発生し、肝臓で無毒な尿素にして体外に排出しています。
肝臓が機能不全に陥ると、アンモニアが体内に蓄積し、肝性脳症などの重篤な状態に陥ります。
しかしながら、生体(主に微生物)が取り込める窒素のもと(窒素源)として基礎的な物質でもあります。
水槽内では主に飼育生体の排泄物、死骸、残り餌などが発生源として主体となりますが、前述のようにシアノバクテリアなどが存在していると窒素固定を行うことがあるので、アンモニアの発生要因になりうるかと考えられます。
飼育生体にとっては基本的には有害でありますが、水槽内に息づく微生物に硝化させる事によって、無毒化や窒素同化を促します。
亜硝酸は前述の通り、微生物がアンモニアを酸化する事で発生し、HNO2と表記されます。水槽内では主にイオンの形態で存在しNO2¯ となります。
亜硝酸はアクアリウムにおいては、アンモニアから硝酸へ変換される際の中間物質として認識されています。アンモニアと比較するとその毒性は低下しますが、それでもまだ生体にとっては安全とは言えない物質です。
硝酸は微生物が亜硝酸を硝化する事で発生し、HNO3と表記されます。水槽内ではイオンの状態で水中に存在し、NO3−となります。アンモニアや亜硝酸塩に比べると毒性は弱く、アクアリウムの濾過システムを構築する上で、アンモニアを硝酸まで硝化させる生物濾過の完成が1つの目標となります。
硝酸は栄養塩として重要な存在であり、植物プランクトンなどが窒素同化を行う為に大切な材料です。ただし、生体によっては高濃度で毒性を示し、許容度は異なりますが、5〜30ppm程度に達すると成長や免疫の阻害を及ぼすとされます。
窒素循環から見た窒素化合物の調整
これまで窒素循環について学んで来ましたが、この循環を把握しておくと、普段測定しているアンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩の捉え方が少し変わるのではないかと思います。
特に硝酸塩は馴染みのある物質ですが、褐虫藻を通してサンゴの成長を促す存在でもあり、闇雲に下げればいいものでは無いです。また高過ぎれば下げる必要がありますが、亜硝酸塩やアンモニアを含め、どのようなアプローチで下げるか戦略が立てやすくなったのではと思います。
以下では窒素循環の観点から、アクアリウムでも特に重要な窒素化合物たちのコントロールを見ていきます。
見やすいように窒素循環の概略図を再掲します。
まずはアンモニアや亜硝酸塩です。これらが上昇するタイミングで最も多いのは水槽の立ち上げ時期です。逆に言うと、水槽の立ち上げ時期以外のタイミングで上昇することはなかなかありません。
この二つの物質は毒性の高い物質なので、検出された場合は基本的に除去する事を考えます。
まずは発生源ですが、主には生体の残飯、排泄物、死骸などが主体となります。そしてその分解はアンモニア硝化菌や亜硝酸硝化菌が担っています。このため、アンモニアや亜硝酸塩を除去するためには、その発生源の除去と、分解を促進させる事が大事です。つまり濾過能力を確立させる事です。
濾過については以下の記事で詳細に説明しています👇
発生源の除去は、主に物理濾過が担います。こちらは、スキマーやフィルターなどを利用する事で、すぐにその効果を発揮してくれます。ただし、全てを除去することは困難であり、発生してしまったアンモニアや亜硝酸塩を分解する生物濾過の過程は非常に重要です。ただし、生物濾過は物理濾過とは異なり、濾過してくれる細菌がしっかりと繁殖してくれるまでの期間が必要です。水槽を立ち上げた当初は、生物濾過能力が低いために、アンモニアや亜硝酸塩が検出されやすくなります。
硝酸塩は栄養塩の一つであり、必ずしも除去する事のみを目標にしてはいけません。これを必要とする生体がしっかりと利用できる量を確保しつつ、余剰はあまりない状況が理想的です。ただし、低栄養塩(硝酸塩がほとんど検出されない)の状態でかつ需要と供給のバランスを取るのは難しいと思います💦 私の場合はおおよそ2〜5ppm程度を目標にコントロールしていますが、これでサンゴの状態は安定しています。
上記のごとく硝酸塩はアンモニアや亜硝酸塩とは異なり調整が必要になります。
・硝酸塩を下げる
まず、硝酸塩を下げたいと思った時、どのような対処をするかを考えます。硝酸塩はそもそもは生体の残飯、排泄物、死骸などが発生源となるので、スキマーの性能を上げるなど、物理濾過の向上は効果的です。同様に給餌が多いようであれば控えたり、飼育する生体の量を減らすことも効果があります。
ただし、生物濾過のうち硝化能力をアップさせることは逆効果であり、硝酸塩をさらに上昇させてしまいます。生物濾過で硝酸塩を下げたいと考える場合は『脱窒』を利用する事になります。『脱窒』は嫌気性の環境で行われますので、嫌気層を意識したろ材を選択する必要があります。
以下のようなろ材は嫌気層を作ることが可能だと考えてます。ただし、ろ材の表層では好気環境となるので、微生物のバランスを人為的に調整するのは簡単ではないと思います💦
また硝酸塩の消費者として海藻を育てるリフジウムも一つの方法です。
ただし、これらの手法は必要な硝酸塩まで除去してしまうリスクも伴うので注意が必要です⚠️
そこで有用な方法は『窒素同化』を促す事です。特に褐虫藻の窒素同化が促進されれば、結果的に産生されたアミノ酸はサンゴに供給されるので、硝酸塩を下げつつサンゴも元気になると一石二鳥です。
窒素同化を促す方法として私が最近注目してるのは、ハンナ化粧品さんから販売されている『アップCS2』です。
アップCSシリーズは1~4まであり、バクテリア剤として販売されてるアップCS1は、以前にもご紹介した事があり、使用されている方もよく見かけます。
アップCS2はカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅などの微量元素から構成されており、その主な作用に褐虫藻の窒素同化を促進させる効果があるそうです。
結果的に栄養塩を下げる添加剤になりますが、我が家では褐虫藻とサンゴを健康にする為の添加剤として導入しました🙆♂️
この手の添加剤の効能はどうしても飼育者の主観として判断せざるを得ないので、安易にオススメは出来ないですが、その機序が気に入ったのでしばらく使ってみようと思います👍
・硝酸塩を上げる
次に硝酸塩を上げたいと思った時にどうするか?についてです。硝酸塩が常に0ppmで、サンゴがなんとなく元気がない、色が薄い、などは栄養塩不足となっている可能性があり、この場合に硝酸塩を何らかの方法で付加したいと考える局面が想定されます。
方法としては、そもそもの発生源である餌の増量、硝化の促進、脱窒の抑制などが考えられます。このうち餌の増量は簡便な方法ですが、同時にリン酸塩など他の有害物質も増えるのが難点です。また、後者二つの生物濾過の調整は、目に見えないだけに調整が難しいです。
なので私の場合、必要であれば硝酸塩の直接添加を行っています。
この方法であれば余計な物質が同時に水槽内に入る事はありませんし、調節性もそれなりにあります🙆♂️
長くなりましたが、今回の記事はここまでです😮💨窒素循環は私にとっては非常に面白く、生体を上手に飼育するために大切な知識だなと感じました。読者の皆様にも何か得られるものがあったなら嬉しいです😊
アクアリウムに関連する物質の循環はまだ他にもあるので、余裕があればまたまとめようと思います🔥
ではまた👋